【2018年 年頭の論説】国とは何か?――人口問題の次に来るもの
■ブルゾンちえみが告げた時代の切れ目

 「…35億。」――ゆく年2017年に人気になったお笑い芸人のブルゾンちえみの決め文句。タイトスカートとシャツを基調とする暗めの色のその装いはそれまでのお笑い芸人の相場を塗り替えるような端正なもの。去年ははっきりと認識し難いが、何かが変わる、既に変わっていると感じさせた名場面である。
 「35億」とは地球の人口の約半分、そこでは男の数を指す。全世界の人口が大きく増える傾向にあると同時にこの日本の人口は数年前から漸減の傾向となっていることは頓に知られている。
 それだけ世界に占める日本の大きさは小さくなってゆかざるを得ない――その危機感が良きにつけ悪しきにつけ、日本の存在感を世界に訴える動きにつながっているのであろう。そこにはこの国の生き残りを懸ける必要な営みもあるが、自国を徒に誇るためのものと思しい恥ずるべき営みもある。一般に知られ易いメディアを通して見聞きするものは後者が圧倒して多い。何れにせよ、希望よりも焦燥が大きくこの国を覆っている。
 そして男の数だけではなく女の数を増やすべしとの掛け声も政権などから出ているが、それなどは焦燥の処か既に手遅れではないかと見る向きも少なくない。日本の男女平等度の評価は世界の最下位級であり、国民のそれに関する意識は新しい憲法の公布から七十年を経てもなかなか変わりそうにはない。
 人口の減少に抗うために、子供をもっと生み育てるべしとの声もある。自民党の山東昭子議員が昨年に子供を四人以上産んだ人を表彰する制度を考えたいと語って批判を受けた。確かに実際には荒唐無稽とも思える提案ではあるが、人口減の一因である「少ない子供を大切に育てる」という価値観を変えることには意味のあるものである。その「大切に」とは何かを考えると、それは必ずしも子供の名誉や将来を本当の意味で尊重することではないことは多くの人々が薄々と感じている。相模原市の障碍者施設で起こった大量殺戮の事件はその価値観の忠実な帰結であり、犯人と同じ思想を持つ自らを恥じるべき人も「普通に」少なくない筈である。実際には大家族が普通になることはもはやないにせよ、大家族的価値観は子供と人口が少なくなってゆくこれからの時代にも大切なものとなろう。
 少子高齢化を基底とする人口問題は21世紀の日本の世論の主要の関心事となっているが、人口減が既に誰にも分かる既定の見通しとなっている今や、その次に来るものを見出す必要がある。

■人は国にとって何なのか?

 希望よりも焦燥が覆うこの国の今にあって、去年の秋の衆議院総選挙で安倍政権の自民党が大勝を収めたことが或る面ではその一時の安堵をもたらしている。それを不本意とする人々にとっても、仮にその時に政権交代が起こっていたならばそこに新しい焦燥が生まれていたであろう。安倍政権に、自民党政権に、負ける訳にはゆかない。――そんな焦りが本当にするべきことを見えなくさせるかもしれない。その意味においては去年2017年は安定の年でもあった。
 しかし、この安定もそう長くは続かない。少なくとも人口問題の認識だけでは解決し難いものがホワイトアウトの状態にある。
 それは国の人口は減っても人の豊かさは増えなくてはならないことである。
 国の人口が減ってゆくことが恰も人の豊かさをも減らしてゆくという見方が跡を絶たないようであるが、それは人の自意識が国の形と別ち難く結びついてしまっているからであろう。国が廃れれば心も廃ることは必然ではあるが、国が栄えれば誇らしいという感覚では国が廃れかけている今は誇りを持ち得ないことになる。国と共に廃れかねない心を保つには何か他の拠り処が必要となる。延いてはそれが国を再び立てる力となる。そうであれば「アメリカはもはや私の国ではない。」などという嘆きは出る筈もない。どんなものであれ、国の形と人の形は異なる。
 人はそして自分は国にとって何なのか、それを問うべき時代に来ている。それは半世紀前にケネディ大統領が語った「国が何を貴方にするかをよりも、貴方が国に何をするかを問うべし。」との言葉にも通じるかもしれない。人と人々がいてそれぞれに何かをする所にしか国はできない。国とは人々の営みの寄せ集めである。そして良きにつけ悪しきにつけ、その現実を共にすることもまた国であり、今そこを含め、どこかに素晴らしい日本というものがあるのではない。故に、『日本を、取り戻す。』という安倍政権の声はそれがどんなものであれ誤りである。

■『一人ひとりの高度成長』の時代に

 ――そんな今、かつてのような高度成長を再びすることはできないことは自明である。
 しかしそうであるといって経済成長には頼らない『成熟社会』が必要であるなどという論理の飛躍は更に誤りである。そのように見る人達は人間の幸せをやはり国全体で見るという、高度成長の時代の物差をそれとは違う今の時代に当てる誤りをしている。その計測結果が大きいか小さいかだけが違いであり、それが小さくても幸せと思うべしというのである。国民一人ひとりや人間一人ひとりを見て考えれば『成熟社会』などという発想は出て来る筈もない。そうではなく、昔は国全体が高度成長を果たしていた、今まではその余韻で動いていた、今度は一人ひとりが高度成長をしてゆく時代であると見定めなくてはならない。その成長率が全体の人口減と比べて大きければ良い。
 そのためにはどんな人に仕えたいか、そしてどんな政治指導者を選ぶべきかを考えてみる必要もあろう。自分を変えることも勿論必要ではあるが、どんな人の下に入るかを選ぶことも必要である。結婚ができないことや子供が出来ないことも意外と、それを想い描くことができない、経済力よりも想像力の貧困が原因なのではないか。想像力と経済力の相乗効果が働いてこそ、豊かさと幸せは実現する。今までの時代はそれらが切り離されてどちらかだけが偏重されていたと考えるべきであろう。而して「成熟」とは頽廃の類語であり、想像力のない経済力と経済力のない想像力を奨励する用語であり、21世紀型のファシズムであった。今年からは世界が総力を挙げてその誤った道を殲滅しなくてはならない。

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