日本の夏には半袖は合わない――現代日本人を支配する「夏アイデンティティー」と日本の伝統
 東洋経済オンラインが最新7月17日に『世界が失笑する日本人政治家の服装の勘違い 稲田朋美氏と小池百合子氏の大違いとは?』記事を出している。

 東洋経済オンラインは何頁もの改頁を要する記事が多く、ネット的に暑苦しくて題名を見て面白そうでもあまり読まない。石橋湛山総理が高度経済成長期を前にして創った東洋経済は元々紙の雑誌が充実しており、ネットの記事の作り方にはやや弱いと見える。どことなくごちゃごちゃとしていて読みにくい。暑苦しい服装を見るかのようである。
 ネットには、改頁を要せずに一つの記事を上下のスクロールだけで読ませる配置が基本。中には横スクロールのあるサイトがあったりして改頁よりも暑苦しい。ブロードバンドで改頁の面倒が少なくなっているとはいえ、改頁は一文を先へ進んだり前へ戻ったりするのに手間が掛かり、考えながら読むことを妨げる。

 その記事に言及されている小池百合子東京都知事、元防衛大臣は環境大臣の時にクールビズと呼ばれる夏の軽装を奨める政策を発案したことでも有名。その小池氏の装いの感覚の良さと稲田朋美元防衛大臣のその悪さを比べ、安積陽子氏の著書『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』の一節を引用する。
 確かにその通りであり、私の支持不支持とも偶々か必然にか一致するが、小池氏は良い感じで稲田氏は感じが悪い。実際に稲田氏は外国で失笑を買ったこともあるという。

 但し公正中立のために、小池氏によるクールビズの問題を指摘してもおく。

a0313715_04571593.jpg クールビズは全然クールではない。
 安倍総理や菅官房長官も只今しているネクタイをしないいわゆるノーネクタイは良いとしても、半袖は日本の夏には合わないものである。
 クールビズはその実践例としてネクタイをしないことやスーツを着ないことを主に示しており、半袖を着るべしと云ってはいないがそれを聞いて実践しようとする側はどうしてもシャツは半袖をと思ってしまう。24年前に羽田孜総理が提唱した省エネルックはスーツも半袖、羽田氏と同じ政権で政治家になった小池氏の政策がそう思われても尚更に仕方がない。

 半袖とはそもそも何なのか?

 それは夏も温度や湿度があまり上がらずに少し暑くなるだけのヨーロッパ、西洋の気候に合うように出来たものである。
 西洋は紫外線の照射量も夏の温度や湿度の高い日本の程には多くはならず、故に夏も半袖や袖なしを着て過ごすことになった。
a0313715_05000721.jpg しかし日本や東南アジアなどの暑い地域は、夏に半袖や袖なしを着て過ごすと直射日光による紫外線を多く直に肌に浴びることになり、熱中症や皮膚癌などの可能性が高まる。にもかかわらず半袖の洋服が日本に紹介されるだけではなく広く普及したのは日本の気候を考えない、現地現物を無視すること、即ち西洋化のための西洋化である。
 明治初期までは一般のものであった和服には半袖や袖なしはない。あるのは長袖と七分袖だけであり、只今花火大会などに着られている浴衣も七分袖である。七分袖は長袖より袖口からの風通しを良くして腕の肌の大部分を覆う造りである。長袖も留める釦を外側にしたり吊紐で七分の位置まで上げたりすれば夏にも風通しを良くすることはできる。私が今着ているのも無印良品の袖の吊紐のある長袖シャツ、色は青の縦縞で下はエドウィンのブルージーンズ。それで全然暑くはない。
 そのような日本の夏の特徴を知る西洋が日本人を騙して暑さに弱くするために半袖を日本に売り込んだのではあるまい、日本自らが日本の現地現物を考えずに西洋の目新しいものに飛びついてその侭普及して当たり前のようになってしまったのである。

 熱中症や皮膚癌の可能性だけではなく、半袖は汗が見える、触れれば汗が着くことも難点である。満員電車では甚だ迷惑でもある。
a0313715_05013420.jpg 自分は涼しい格好と思っているのに思いの外に暑いことから、その風采や振る舞いが何気に暑苦しくなり、満員電車ではなく空いている所で見るだけでも結構な不快感。殊に近年は下着を着ずに乳首が見える男が多くなっており、不快感は更に強まる。下着を着ないと汗が表のシャツに滲みるので更に迷惑の種になる。しかし彼等は暑いのでそれしかないと信じて疑わない。現代日本人の手本を形成した近代西洋化の根は深い。
 しかし、昨年に私がブログの『乳首と監視社会』と題する記事で警告を発したのが誰かによって拡散されたからか、今年は乳首男や下着なし男は少なくとも私の目の届く範囲――:南多摩地方――にはかなり減っている。

 明治女が「夏は半袖を着るものよ。」と云ったら最後、それが絶対の行動様式になってしまい、半袖を着ていないと「暑くないの?」と真顔で問う、フランスのお笑いではあるまいし。暑苦しいのはそう問うている人であったりする。
 しかし現実には、明治の時代にも大正や昭和の時代にも、「夏は半袖を着るものよ。」と云う人は然程に多くはなかったようであり、寧ろ日焼けが恐いからとか虫に噛まれるからとかということで夏にも長袖を奨める人が平成初期までは男女共に多くいた。それと半袖ではお得意先に失礼になるから。その得意先への配慮を撤廃するには政治の力を要して省エネルックやクールビズにつながった訳である。当事者は「どうしましょうか?いいですか?」とは言えないからであり、仮に自分達がそこでそのように合意に達しても他にはなかなか拡がるものではない。それが若し非自民による政治改革、即ち細川政権から出たものであったならば、半袖の奨励策はその唯一つの誤りといえよう。

 日本の和服だけではなく、アラブの白や黒のターバン付の服なんかも皆長袖。暑い地域には半袖は合わない。
 日本人の夏の半袖は西洋的というよりはいわゆる植民地的。

 尤も、然程に暑い季節ではなければ半袖が合うこともあり、涼しい春や秋はその季節といえる。そもそも日本は『春秋論争』などが示すように、古来より春と秋にアイデンティティーを見出していた民族である。その春や秋が西洋の夏に相当する。故に日本においては西洋のブランド服の春物や秋物が着れる期間は当地と比べとても短い。そろそろ着れる頃と楽しみにしているとあっという間に暑くなったり寒くなったりして着れなくなる。結局は季節不問の普通なシャツを夏にも着るべくなり、逆に向こうの夏物を春や秋に着るのが潰しの利く買い方である。四季の緩やかな西洋においては地域によっては春物や秋物の設定はないかもしれない。

 その半袖が現代日本人のアイデンティティーにも根を下ろして「夏アイデンティティー」と呼ぶべきものを形成している。
 世界に現代の日本の程に夏を偏重して好む民族はない。
 古くは日本人は「春アイデンティティー」や「秋アイデンティティー」、比較少数として「冬アイデンティティー」、その三つが多くを占め、「夏アイデンティティー」は稀少数であった。近年は夏は熱中症の危険などにより忍び凌ぐだけの季節と再び認識されるようになってきているが、昔はそれが当たり前であり、何らかの積極的価値や美意識を見出すべき季節と見られてはいなかった。いわば夏は日本人にとっては「捨て牌」である。
 忍び凌ぐことが生きる必要としてではなく積極的価値や美意識となれば、それはやくざの価値観である。
 現代の日本人は知ってか知らずか、やくざ紛いになっている。
 とんでもない、自分は紛れもなく堅気であって暴力団は断固排除すべしと思っている人の程にその本質は夏アイデンティティーに基づくやくざ紛いの価値観であったりする。
 西洋人にとっての夏の想念(イメージ)の典型はアルベール カミュの小説『異邦人』やプロスペール メリメの小説『カルメン』の描く不条理の世界。何れもフランス人の作家による作品ではあるが『異邦人』がアルジェリアを舞台として『カルメン』がスペインを舞台とすることに象徴されるように、夏とは怪しげな異国のものであり自国の価値観ではないもの、危険地帯の表象と認識されるようなものである。
 実は古来の日本人にとってもそれらと細部を除いては殆ど違わない。今風に言えば、古来の日本人にとっての夏とは怪しげなシナ朝鮮の世界、特亜のものである。
 しかし現代の日本においては夏は積極的価値や美意識と認識されている。
 夏を称揚する芸術、殊に音楽が実に多い。サザンオールスターズやTUBEはその代表格であるが、旧くは石原慎太郎の原作で石原裕次郎の出演による映画『太陽の季節』。
a0313715_05033976.jpg サザンは寧ろその巧妙な作りにより夏アイデンティティーを薄めたり反転させたりするようなものがある故に広く安心して親しまれているが、『太陽の季節』は日本人のやくざ的夏アイデンティティー化の奔り(はしり)となったもの。その原作者の本意も寧ろ夏アイデンティティー化を批判して食い止めようとするものであったのかもしれないが、その出演者はそれを煽って勧める役目になった。石原裕次郎は允に身勝手でならず者としかいいようのない人物なのが実像である。
 そして日本人の悪弊といわれる様々なもの、日本人の不可解さといわれるものは夏アイデンティティー化により生み出されてきたものなのである。
 最近にも少なくはない人を熱中症に遭わせているといわれる根性主義はその発祥は別物ではあるが或る時代から夏アイデンティティーのやくざ性と結びついて今に至るものである。戦前の精神主義がその侭では継承されずに戦後の世俗主義である夏アイデンティティーと結びついて大衆化した。その理由は戦後の「解放」の機運にあっては戦前の精神主義は如何にも分が悪く、民衆が親しむ世俗主義を取り込まないと生き延びられなかろうという余計な考えが持たれたからである。
 
 そのように自らのアイデンティティーを夏に見出す者にとり、西洋においては普及している慣習である長期休暇、バカンスは如何にも相容れないものである。
 夏こそが生涯の舞台、即ち働くべき季節なのに、そこを休みにされてはアイデンティティーが喪失されるという。
 といって、彼等は夏には元気で強いのではない。著しく弱くはなくて一応は乗り切るだけの体力があるが、正に夏を「忍び凌ぐ」ことに自己満足と積極的価値、美意識を覚えるのである。よってバカンスの条件といわれる生産性の向上とは無縁であり、本当の充実感は存在しない。
 しかし大人の夏休みには反対であるが子供の夏休みには大賛成である。それは子供を酷暑に晒してはならないという配慮ではなく、子供は遊ぶことが仕事であると思うからである。といって遊びが得意で真剣に遊ぶのではなく、単に勉強が嫌いなだけ。遊びという仕事をしている子供の姿を見ることに無上の生き甲斐を感ずる。ホモ雑誌『薔薇族』の基調もそのような夏アイデンティティーにあり、どちらかといえばいわゆるノンケ――:ホモではない人を指す業界語――の興味本位に応えるエンターテインメントの性格が強く、同性愛とは関係のないものと思える。

a0313715_05062838.jpg かように現地現物や現実と掛け離れるので、夏アイデンティティーとは無謀の称揚であるともいえる。
 無謀といえば大東亜・太平洋戦争がしばしばその典型といわれるが、その終戦が盛夏の8月15日になったのは偶然ではなく、連合国の側が用意周到に予め考えて決まったものなのではないかと思う。
 戦前にも胎胞していた日本人の夏アイデンティティーを見抜き、終戦の記念をその季節に行わせることにしたのである。典型は旧東京招魂社、靖国神社における英霊の「招魂」である。
 元々その時期には盆があり、死者の魂を招くことが慣習ではあるが、東京招魂社はそれを戦争と結びつけた。
 戦争が無謀ではなかったその時代には意義があったであろうが、大東亜・太平洋戦争を通して東京招魂社の意義は歪められることになった。そして靖国神社と名を変えた戦後は夏アイデンティティーの拠所、即ちならず者の拠所としての新しい役目を帯びることになった。
 因みに私は靖国神社を歴史を留めるものとしてそれなりに尊重する。

 靖国神社を拠所とするような極右だけではなくパヨクと呼ばれる左派においても無謀を称揚する夏アイデンティティーが特徴である。但しパヨクはそれを表立っては現さず、逆に自らを合理主義で科学的であると思い込む。
a0313715_05073780.jpg 熱中症による被害が立て続く今年の夏の酷暑を受けて冷房を全ての学校に導入すべしという主張が最近にネットを主として湧き上がっているが、そもそも冷房を導入してまで夏に学校に通いたがることが無謀である。学校の校舎には冷房があっても外にはあり得ないし、通学は変わらず酷暑で熱中症の危険がある。子供の身を守る具体的手立てと責任を掻き消すかのように、彼等は唯ひたすら「学校に冷房を!」と連呼する。それが実現しさえすれば後は悉く子供と親の自己責任であって何も云わせないと言わむばかりになろう――勿論、自己責任もあるが普通に負うべき自己責任とは意味が異なる。――。
 教育基本法の精神を叩き込まれてそれを永久に保存しようとする彼等にとっては学校にしかアイデンティティーの拠所がない。学校で専ら悪い思いをしていたなら「いつか見返す。」という意味での拠所である。故に冷房を口実にしてその維持を図るのである。
 また、その他の代替策を考えないのは合理主義や科学的態度とは到底にいえない。「論語読みの論語知らず」が教育基本法にも憲法にも当て嵌まる。それに懐疑や反対を示す人を人殺し呼ばわり、信用や支持もされるはずがない。そのように信用や支持をなくすことにより野党や権力の批判の存在をなくすために態としているのではないかとも思える。

 日本が良い国になってゆくことを望むなら、酷暑の夏にも確りと下着を着て長袖を着て権力の批判をするべきである。

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